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あの素湾

「健康のために歩いているのか」
「歩くのがいちばんいいらしい」

彼は軽く砂を揚げて来る風を、じっとしてやり過ごす時のように、おとなしくしていた。笑談(じょうだん)じゃない。ほんとうに重要なものは隠れているものだ。
精神界も同じだ。いつ何時どんな変に会わないとも限らない。
それも自分が知らずにいるだけで、いま現にどんな変がこの肉体のうちに起こりつつあるかも知れない。世界も全く同じ事だ。

「ロシアではツアーリが倒れた」
「なべてこの世のものは無常なり Praeterit figura hujus mundi」
「彼らは傷ついた子どものまま自ら命を絶った」
「やはり人間は境遇次第だね。世の趨勢にはさからえない」

故意だか偶然だか、彼の持って行こうとする方向へはなかなか持って行かれない彼の友人は、いつまでも彼の問に応ずるようなまた応じないような態度を取った。
彼は思わず笑い出してしまった。

「余裕がそう云わせているのだ。ゴミためで生きるゴミなら、排泄されたメタンガスが溜まって大爆発になる。ここではお互いに軽蔑しあって、それなりにバランスがとれたガス抜き装置の中でチープな快感を刹那に所有し騒いでいる」
「自由のために戦ったことがないのではどうしようもない」
「それではいつまでたっても自分と親しい同じ層を標的にすることになる」

馬鹿になっても構わないで進んでいけばいいのだ。
自由のために戦えばいいだけだ。

引用;黒い皮膚・白い仮面,フランツ・ファノン,海老坂武・加藤晴久 訳,みすず書房,1998.9.22.
「芸術言語論」への覚書,吉本隆明,李白社,2008.11.17.
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