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あの青糞

はじめ彼は自分自身を見ているのだと思った。すぐにそれはすべて自分自身と関係のないものであることに気がついた。彼はその中をすごいスピードで落ちていくものでしかなかった。彼が見ているものは永遠だった。はじまりも終わりもないものだった。

もぞもぞと前足を掻き、泥にまみれて土を掘っていくことが快感になっていた。自分の掘った穴がときどき他人の穴とつながった。それは快感以上のものになった。自分の穴に新しい空気が流れ込んできた。古い、もう所有者のいなくなった穴に突き当たることもあった。ひからびた死体がいくつもあった。よどんだ空気が流れるようになって、からからに乾いていた穴の表面にも湿気がもどった。暗闇の中、あちらこちらに無数の自分と同じ生き物の気配が充満していた。

穴は自分ひとりのものではなくなっていた。

物事は自然に、動くように動いているようだった。自分のものが何もなくなったとき、ものに依存する必要がなくなった。なにかを選ぶ必要もなかった。戒を守った。世間の善悪を評定する前に行動することができた。他人のために祈った。


引用;『虫の生活』,ヴィクトル・ペレーヴィン,吉原深和子訳,群像社,1997.11.20.
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